東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2393号 判決
被控訴人が昭和三四年一二月二日開催の取締役会で(一)記名式額面普通株式五、七六〇万株を発行する(二)発行価格は一株につき金五〇円とする(三)新株式は昭和三五年二月二九日午後五時現在株主名簿に記載されている株主に対し、その所有株式一株について新株二株の割合で割り当てる(四)申込期間は昭和三五年四月二五日より同年五月一〇日までとする(五)払込期日は昭和三五年五月二一日とする(六)申込証拠金は一株について金五〇円とし、払込期日に払込金に充当する旨の決議をしたこと、控訴人が右基準日当時被控訴人の株主名簿に五〇〇株の株主として記載されていて、被控訴人が昭和三五年四月二五日控訴人に一、〇〇〇株の新株割当の通知書及び株式申込用紙を送付し、控訴人が同年五月二日右申込用紙に所定の事項を記入の上取扱場所である払込銀行に一、〇〇〇株の申込をすると同時に証拠金五〇、〇〇〇円の払込をしたこと(但し、被控訴人は、控訴人は取扱銀行でない三菱銀行福山支店に払い込み、取扱銀行である同銀行岡山支店がその受入をしたのは同月四日と主張している)、控訴人が右基準日に先き立つ同年一月二八日その権利に属する旧株式五〇〇株を訴外田中佐一に譲渡し、同訴外人は同年二月一六日被控訴人に株式名義書換の請求をしたのであつたが、その書換が被控訴人の過失により右基準日当時なお未了であつたことは当事者間に争がない。
しかして、被控訴人は右のような事実関係の下では、控訴人は基準日における実質的株主とはいえないから控訴人には新株引受権はなく、従つて、控訴人に対する新株割当の通知は無効であると主張し、これに対し、控訴人は新株割当の通知に従つて引受の申込をした以上、その申込は申込人が実質上の株主であつたと否とに拘らず確固不動のものであつて、申込人は新株の権利者となるものであると主張するから、次にその当否について考えてみるのに、株式の譲受人が譲受株式について会社に対し名義書換の請求をしたのに拘らず会社が正当の事由がなくその請求に応じないときは、会社はいまだその名義書換のないことを理由として譲受人の株主であることを否定しえないことは今日の定説である(大審院、昭和三年七月六日判決参照)。そうすると、先に指摘したように田中佐一が控訴人から前記五〇〇株の譲渡を受け、被控訴人に対し名義書換の請求をしたのに対し被控訴人が過失によつてその書換を怠つていたものである以上、田中はその株式の取得を被控訴人に対抗しうるとともに、その反面控訴人は被控訴人に対しその株主たることを対抗しえなくなつたものといわなければならないが、商法第二八〇条ノ二により取締役会の決議により新株引受権を与えられうる株主は、会社に株主権を対抗しうる株主に限られ、それ以外の者に対する割当は無効と解するのが相当である。けだし、もしそうでないとすると、会社はその肆意により株主名簿の書換を拒否することによつて会社に対抗しうる株主権を有する株主の新株引受権を奪い右商法の規定をじゆうりんすることができるばかりでなく、旧株主に対して新株式の割当が決定されたときは、旧株式の取引が新株引受権付で行なわれている現在の取引(この点は公知の事実である)秩序が根本的に破壊される虞なしとしないからでもある。
(田中 岡松 今村)